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忍者が異世界入り10話

「コボルトキング……。ココ、コボルトキングだ……」
「ゲンゾウさん、逃げよう! キングが出た! 逃げようよ!」

 二人の少女が俺の背後から、震える声でそんな事を言ってくる。
 目の前で油断無くこちらを伺う鎧を着たコボルトは、俺を見ると一歩下がった。
 取り巻きのコボルト達に何事かをボソボソと囁くと、突如甲高い鳴き声を上げる。

 犬の遠吠え。

 どうやら仲間を呼んだらしく、戦場のコボルト、オーク、ゴブリン達が途端に戦いを止めそちらを向いた。
 コボルトキングの取り巻きは、キングを守る様に身を寄せ合い、俺にのみ視線を向けていた。
 このコボルトキングとやらは、俺一人を酷く警戒している様だ。
 後ろから、服の裾をくいくいと引かれる。
「ゲンゾウさん、あれはコボルトキングですよ。どうして襲ってこないのか分かりませんが、ゴブリン指揮官、オークロードといった上位のモンスターの中でもとびきりのヤツです。私達じゃ勝てませんし、他の冒険者を呼んだところで返り討ちに遭うだけです。逃げましょう!」
 弓使いの少女が怯えた顔でまくし立てた。
 確かに、こちらを警戒して動かないコボルトキングは、今までの物の怪とは格が違う様だ。
 数が多いからと一斉に襲ってくる訳でも無く、自分よりも体の小さな俺を見ても、舐めることなく力を推し量っている様だ。
 子供二人を連れているのだ、ここは引くのが得策か。
 それに、こうもハッキリと姿を捉えられている。
 俺は誇り高い侍ではなく、忍。
 真正面から堂々と戦う意味など一つも無い。
「分かった。ここは引こう」
 俺の言葉に、二人の少女はホッとした様に息を吐く。
 ジリジリと後ずさる俺達を、コボルトキング達は見逃してくれる様だ。
 こちらを見据えて警戒は解かないままで、続々と集まってくるモンスター達を束ねていく。

 一定の距離を取り終えると、ようやくこちらから警戒を解いたコボルトキングは、足下に転がっていた冒険者の遺体から、使えそうな武器や鎧を剥ぎ取っていき、それを配下のモンスターに配り始めた。
「「あ……」」
 少女二人がそれを見て、悲しそうな顔で小さな声を上げる。

 ……そうか。
確か、あそこに倒れていたのはこの少女達の仲間だったな。






 二人の少女を引き連れて、冒険者達がバリケードを作り、天幕を張って制作した前線基地へとやって来た。
 そこでは、怪我人や戦い疲れた冒険者達が思い思いに休憩している。

「ゲンゾウさん、ありがとうございました。おかげで助かりました!」

 弓使いの少女が笑顔で言ってきた。
「本当だよー、ゲンゾウさんが通りかかってくれなかったらどうなってたか……。今頃、コボルトの餌かオークの性奴隷として連れて行かれてました。ありがとうございました!」

 槍使いの少女が、言いながら、槍を抱いたままモジモジしている。
「そ、それで……、ですね。ぜひ、このお礼を……」

「ちょっと、仲間が死んだばかりだってのに何色ボケてんの!?」
「い、色ボケ!? 色ボケですって!? 仲間が死んだからよ! 私達二人で、これから一体どうやって食べていくのよ! 即戦力になる強い人が必要なの! それでいて、陰のあるクールな感じなら余計にいいし、危ない所を助けてくれたりしたなら、それはもう運命よね! そう、これはきっと運命。いつしか私達は、共に苦難の道を乗り越えて……」

 弓使いの少女が、くいくいと俺の袖を引っ張ってきた。

「あの……。実は私達、持ち合わせが無くってですね……。お礼をするにも、その……」
「礼など不要、勝手にやった事だ。それに、『ぼうけんしゃまにゅある』、なる小冊子には、冒険者たるもの助け合うべしとの記述があった。俺は掟に従ったまでだ」
「お、掟……!? いえ、そこまで強い口調でも書かれてませんし、できたら、って程度で……」

「そして……! そして、ついに迎えた挙式の日! 私を狙う男達が教会に押し寄せるの! でもそこはもぬけの殻、私達は……! 誰もいない岬の教会で、二人きりで愛を誓いあうのよおおおおおおお!」

「ゲンゾウさん、その、お礼の件はまた今度……。相方がこんなんなってるので、もうちょっと落ち着いた時にでも……」
「承知。では、俺はまだやる事があるので失礼する」
 赤い顔して槍を抱きしめクネクネしている娘を、可哀想な物を見る目で見ながら少女が言った。
「……やる事?」
「ああ、ちょっとな」








 ――コボルトキングが出た。
 そんな報告を受け、私はライムと共に戦線を退いていた。
 私一人で十二匹。
 ライムは八匹屠ったそうだ。

「あー……。四匹差かあ……。頑張ったんだけどなー」
「ふふっ、敵の殲滅力で魔法使いに勝てる人なんていませんよ。そんな人がいたら見てみた…………いえ、一人だけいますが、まあ、それは……」
「……うん。それはまあ。ねえ……?」

 地面にあぐらをかいて休んでいたライムも、私と同じ人を思い浮かべていたらしい。
 というか、私とライム、二人合わせて二十匹。
 本来ならば、この数字はそこそこの腕の冒険者、それも四人ぐらいのパーティーがようやく倒せるかといった数字なのだが。
 それでも……。

「……多分、この数字だとゲンゾウには追いつかないよねえ?」
「でしょうねえ……。で、でも! 戦場で、ゲンゾウさんの戦っている所を見ましたか? あちこち探してみたんですけど、どこにも見当たらなくて……」

「あたしは見たよ? なんか、攻撃する瞬間だけフッと現れて、攻撃した敵が倒れる前には、また姿を消してたよ」
「何ですかそれは。いつからゲンゾウさんは幻術使いに転職したんですか?」

 ゲンゾウさんが就いている職業、ニンジャーとかいう職の専用スキルか何かなのだろうか?
 そもそも、ニンジャーとかいうその職業を、聞いた事も見た事もなかった。

 魔道学園では主席だった私がだ。
 ゲンゾウさんにニンジャーの事を尋ねた時、詳しく教えてくれたのだが……。

「ニンジャーとサメライについて色々教わったけど、良く分かんなくてさ」
「私もですよ。一応、ゲンゾウさんに聞いた話をまとめてはみましたが……。ニンジャーと言うのは、ニポンという国に生息している謎の多い生物で、人に紛れ、本性を誰にも悟られないという擬態能力を有し、炎や煙などを吐くそうです。固体によっては毒性を持つものも存在するとか。ブンシンノジツと呼ばれる特殊な方法で、単体でも増殖すると聞いたので、スライムのような分裂が可能な生物、または雌雄同性体の生物ではないかと推測されます」
「ほほう、なるほどなるほど」

「そしてその国には、サメライと呼ばれる、ニンジャーを飼い慣らしている首狩り族がいるそうです。彼らは他種族のサメライの首に強い執着を持ち、カタナと呼ばれる武器で他の部族のサメライの首を狩ります。彼らはチョンマゲと呼ばれる角を生やしており、チョンマゲが長くて立派なサメライの首ほど希少価値があるとか。そして、その首の価値等によって、金銀や土地などと引き換えられるそうです。更に彼らサメライは、ハラキリと呼ばれる呪術的な儀式を行います」

「ハラキリ?」

「はい。藁で編んだ人形に敵の髪の毛を入れ、自らの腹部を短刀で突きます」

「………す、すると、どうなるの?」
「相手は死ぬ」
「マジで!」

 色んな知識がごっちゃになっている気がするが、ゲンゾウさんから聞いた話をまとめると、大体こんな感じになった。
 大体合っていると思う。
 しかし、その話とゲンゾウさんの繋がりがよく分からない。
 ゲンゾウさんも、この謎の生命体、ニンジャーなのだろうか?

 と、そんな事を思い耽っていると、誰かの声が聞こえてきた。

「コボルトキング達が引き上げるみたいだぞ!」

 その声を聞き、私とライムは立ち上がった。

 コボルトキング。

 迷宮の奥底に生息する上位のモンスターで、本来ならばこんな所に現れない強敵。
 つい先日も、オークロードなんて上位のモンスターが現れたばかり。
 この所、おかしな報告が立て続けにギルドにもたらされているらしい。
 普段なら雑魚ばかりの狩り場に、上位の個体が現れるというのはザラで……。

 深夜、街の外に広がる森の方から、何かを殴ったりする音が響く。
 翌朝になって森の様子を見に行くと、木の幹が何かで殴られたように抉られていたとか。
 盗賊ギルドの頭の枕元に、なぜか夜な夜な、お金の入った袋が届けられ、ギルドの頭がノイローゼになり、発狂寸前になっただとか。
 そんな不可解な現象が重なったところで、このコボルトキングの出現だ。

 何かが起こっているのだろうか?
 しかし、それが何かは分からない。
 私とライムは、退散するというコボルトキングを一目見ておこうと、ダンジョンの脇に掘られた穴へと向かうと……。
 そこには、深い闇に包まれた、ダンジョンへと続く穴の前に、無数の妖魔を展開させたコボルトキングの姿があった。
 そのモンスターは、もはやコボルトとは思えない巨躯を鎧に包み、周囲の冒険者達を油断無く警戒していた。
 その警戒する様は、まるで、誰かを探しているような……。

「人間ヨ! 今日ハこれで引き上げる。あくまで今日は様子ミだ。戦は楽シイな! お前達もソウ思うだろう? だから、冒険者なんて商売をしてイルのだろう?」

 突如人の言葉を喋り始めたコボルトキング。
 その発音はオークロードよりも流暢で、とても聞き取りやすく……。

「アア、楽しいな人間ヨ! またやり合おう! 今日のトコロは、この戦利品をもらっていくぞ。敗者にはペナルティーを、だ。よもや、異存はあるまいナ?」
 そんな事を言いながら、コボルトキングは戦利品、つまりは女の冒険者達を引っつかんでいた。
 ……あれっ、中には男の子が混ざっているような……。

「ねえノア、あの人達連れてかれちゃうよ! どうしよう! ノアの魔法でドドーンとやっちゃえないの!?」
「捕らえられているあの人達を盾代わりにもしているので……。悔しいですが、これはどうにも……」
 そう簡単に諦めてもいいのだろうか?

 こんな時、彼ならどうするのだろう。
 未知の相手だったオークロードを前にして、自分一人なら簡単に逃げられる身体能力を持ちながら、その日にあったばかりの私を置いてはいかず、アッサリと敵を倒してしまった彼ならば……。

 私は杖を握る手に力を込めると、一歩、コボルトキングに近づいた。

 周囲では、他の冒険者達がコボルトキングを遠巻きに見つめ、その動きを牽制していた。

 捕らえられている冒険者達は、手を縛られてはいるものの、足は自由な様だ。
 精度を上げた閃光の魔法で、ロープを狙撃し焼き切ったらどうだろう。
 捕らえられている人達はまだ、目の光が消えていない。
 逃げ出す機会を伺っている。

 と、魔力を高めていく私に気が付いたのか、コボルトキングが私の方をジッと見ていた。
「…………」
 コボルトキングが、笑った気がした。
 気のせいだろう。
 いや、気のせいのはずだ。そう、コボルトが、
「そこの女。コノ連中を助けたいのカ?」
 ……そう。そのコボルトが。

 まさか、逃げる事はないだろうな。

 そんな視線を投げかけながら、私に向けて挑発してきた。
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忍者が異世界入り 9話

 数匹のオークに囲まれた鎧の男が泣き叫ぶ。
「アレン! アレーン! 助けてくれ、こっちはもう……、っ!?」
 と、その男の顔が驚愕の表情に変わった。

 どこからともなく飛んできた、無数の棒手裏剣に喉を貫かれ、次々と崩れ落ちるオークを目にして。

 ――造作も無い。

 乱戦の中、身を低くして素早く駆ける。
冒険者達と相対する魑魅魍魎。
冒険者達の陰から陰へと移動し、手持ちの棒手裏剣をそれらの急所に投げ放っていく。
 戦場の臭いが否応なく感情を昂ぶらせ、知らず敵を屠るペースが早まっていく。
 
 汝、目立つべからず。
 汝、表に出るべからず。

 それらは修行時代、長によく言い含められていた事だ。
 しかしながら、己の技を試せる事に悦びを覚えてしまうのは仕方のない事だった。
「……見敵必殺……見敵必殺……!」
 小声で呟きながら、自己暗示を掛ける様にして見つけた敵を屠っていく。
 一体、どれほどの敵を葬り去ったのだろう。
 いつしか手持ちの棒手裏剣は底を尽き、クナイも全て投げ放っていた。

 戦場の空気にあてられたのか、体の疼きが収まらない。
「おお……。なんか、押し返してないか……?」
「密集しろ! 今の内に連携を取れ! オークに連れて行かれた奴は一端諦めろ! オークに攫われてもすぐに殺される事はない、きっと救出に行く!」
 あちこちでそんな怒号が飛び交い、冒険者達が右往左往している中、コボルト達の小集団を発見した。
 数は六匹。
 そのコボルトの集団は、二人組の冒険者を取り囲み、こちらに気づいてはいない様子だ。
 たとえ格下相手だと思えても、正面から挑むのは愚かな事だ。
 不意を突けるならそれに越した事はない。
「こっち来んな! 来んなってばあ!」
「手の空いてる人、ヘルプお願いしまーす! たっ、助けてえええええ!」
 助けを求めている様子を見るに、獲物を奪ってしまっても問題あるまい。
 限りなく身を低くし、地を這う様にコボルト達の背後に駆け寄ると――

 左手で握りしめた忍者刀のツバを親指でグッと押し、居合の要領で抜刀と共にコボルトの首後ろに斬りつけた。
 斬り飛ばされた首が宙を舞い、首を失ったコボルトが倒れる事なく痙攣する。
 首をはねた刀の勢いはそのままに、刃先が隣のコボルトの首筋に当たった瞬間、それを引く。
 動脈を斬られたコボルトが、痙攣しながら勢い良く血を吹き出させる中、首をはねられた方のコボルトがようやく地に崩れ落ちた。
 こちらに気づき、振り返ろうとした一匹の脇腹に、低い体勢で下から刀を突き立てる。
突き入れた刀を軽く捻り、コボルトの脇腹に刀を残したまま手を放す。
 脇腹を突かれたコボルトは、こちらに視線を合わせられずに倒れ伏した。

「「えっ」」
 
 俺の方を向いていた二人の少女が、何が起こったのか分からずに呆然と声を上げる中。
 ようやくこちらを向いた三匹のコボルトに素早く身を寄せ。
 コボルトの一匹に、近距離からの後ろ回し蹴りを放ち、金属で補強されたかかとをコメカミに叩き込む。

 頭蓋が砕ける鈍い音。

 蹴りを食らったコボルトを見た残り二匹が、錆が浮いた汚い剣をこちらに向ける。
 両の手首を捻ると、シャッと金属が擦れる音を立て、手甲の先から金属製の爪が飛び出した。
 一瞬で絶命した四匹の仲間と俺とを見比べ、二匹のコボルトが悲鳴を上げて逃げ出そうとする。
 もちろんこのまま逃がす理由もなく……、
「すすす、すっご……!」
「何!? ねえ、な、何が起こったの!?」
 両手の鉄爪を背を向けた二匹のコボルトの首後ろに埋めると同時、寄り添うように地に座り込んで見ていた少女二人が、こちらを呆然と見上げてそんな事を。
 …………いかん、調子に乗って気持よく戦闘をしていたら、一部始終を見られてしまった。
 コボルトの腹に埋まったままの刀を抜いて、二人の少女に声を掛ける。
「無事か?」
 俺の端的な一言に二人はコクコクと頷く。
 うむ、問題なさそうだ。
「では行く。他にも、劣勢な所がある様なので。手製の傷薬を置いていく。怪我などあれば、どうかこれを」
 地にへたり込んでいる二人の少女にそう告げると、その場を立ち去ろうと……。
「えっ、ちょ、ちょっ……! あっ、あのっ! お兄さん、名前! な、名前を……!」
「そ、そう! 名前教えてください! あっ、ていうか、一緒について行ってもいいですかっ!? 私達、仲間とはぐれちゃって……!」
 と、慌てたように言ってくる二人の少女。
 ……ライムと年端も変わらない子供が助けを求めている。
 ――どうしたものか。
 今はノアやライムとの勝負ごとの最中ではあるが、それとて人命に代えるほどの事ではあるまい。
 ここは、この子供を保護し、安全な場所に連れて行くべきか?
 だが、この二人とて冒険者の様だ。
 保護者のごとく振る舞うは、無礼に当たらないだろうか。

 忍時代であればこのまま立ち去っていたものだが、今の俺は一介の冒険者。
 己の意思で物を決めるという事が、これほど考えさせられるものだとは……。

「……分かった。では、二人とも安全な場所まで送り届けよう。付いてくるといい。……そして、俺の名はゲンゾウだ」
「ゲンゾウさん……」
「あっ、あのっ! 私達も戦えます! 安全な所に送るんじゃなく、一緒に連れてってくれるだけで大丈夫ですからっ! 後方からサポートしますっ!」
 二人がそんな事を言ってくる。
 ……どうしたものか。
 鋼線の具合を試したかったのだが、この武器は近くに仲間がいると使えない武器だ。
 ……まあ、この危険な米国であれば、武具を試す機会などいくらでもあるか。
「分かった。では、付いてくるといい。くれぐれも無理はしないようにな」
「「はっ、はいっ!」」
 二人の少女は上擦った声を揃えて言ってきた。





「あの……ゲンゾウさん、ご趣味は……」
「薬草採取と鍛錬、武具の手入れと精神修行、後は……」
「あわ……。あわわわわわわ…………」
 二人の少女を連れ、数分後。
 俺達は、再び戦場に戻っていた。
 二人を連れている以上、隠密行動などできはしない。
 その辺は不本意ではあるが、戦場の空気に当てられ、若干我を失っていた俺には、目を覚ますに丁度良かったのかもしれない。
 俺もまだまだ修行が足りない。

「素敵なご趣味ですね……! 私は、槍の手入れが好きなんです。この槍、お父さんからもらった物で……」
「ほう。父御からの授かり物か。見たところかなりの業物。手入れも行き届いている様で何より。良い心掛けだと思う。俺も見習わねば」
「そ、そんな……っ! あたしなんて、ゲンゾウさんに比べれば……!」
「はわわわわわわわ、あわわわわわわわ!」
 槍を両手で抱きしめ、恥ずかしそうにしている少女。
 その隣では、弓を手に青い顔をした少女が妙な声を上げ続けている。
 そして、俺はと言えば……。
「あっ、そう言えば! まだ、私の名前を言ってませんでしたね。私の名前は……」
「おっと」
「わっ! ……ゲンゾウさんて、本当に凄いですねえ……。飛んでくる矢を手で掴むとか……。私、また助けられちゃいました。一体どんなお礼をすればいいものか……。そうだ! 私の知っている、パフェの美味しいお店があるんです! これが終わったら、そこで……!」
「冒険者家業は持ちつ持たれつと聞く。礼など不要。……だが、その、ぱへとは何か?」
「ああああああああ。あああああああああああああああああ…………」
 
 出会う敵、出会う敵。
 それら全てを、出会い頭に屠っていた。

 名も知らぬ槍使いの少女と世間話をしながら、遭遇する物の怪を退治していく。
 子供連れである以上、数の多い集団は避けるべきだろう。
 そう判断し、群れからはぐれた物の怪を狙っているのだが。

 と、またも一匹の物の怪を見つけた。
 この豚顔の物の怪は、今日だけで何匹屠った事だろう。
 俺の姿に気付き、こちらに剣を向けて突進してくる物の怪。
 突き出してくる剣を右方向に一歩踏み出して難なく躱し、躱し様にその剣を、手甲で下からトンと上に跳ねると、両脇を無防備にさらしてくる。
 がら空きになった脇腹に、右の抜き手を突き入れた。
 この豚顔の物の怪の骨の位置、臓腑の位置は、人となんら変わりが無い事は把握している。
 肋骨の隙間に指を入れ、的確に脈打つ物を指で突いた。

 身を震わせて絶命する物の怪を前に、弓使いの少女が声を上げた。
「ああああああああああああああああーっ!」
「ちょっと! さっきからうるさいわよ! せっかくの良い雰囲気を邪魔しないで!」
「ちょっと何言ってるのかわかんない! ていうか、おかしいよ! さっきからおかしいよ二人とも! ゲンゾウさんは何ソレってぐらいにメチャクチャに強すぎておかしい! あんたは元々おかしい!」
「何ですって!」
 戦場だと言うのに、揉み合いながらきゃあきゃあと騒ぐ二人。
 油断なく辺りを見回すが、どうやら冒険者側の方が押し勝っている様だ。
 幾人かが豚顔の物の怪に連れ去られていた様なので、それらを救出してやりたい所なのだが……。

 と、一匹の物の怪が俺をジッと観察しているのに気が付いた。

 コボルトと呼ばれる犬顔の物の怪だが、他の者とは大柄な体躯を持ち、鎧を身につけている。
 その周囲には、数匹のコボルトを引き連れ……。
 そして、足下には……。

「「あっ!」」

 二人の少女が声を上げる。
 二人は、そのコボルトの足下から目を離さない。

「み、皆……」
 コボルトの足下に倒れ伏す事切れた冒険者達を見て、名も知らぬ槍使いの少女が小さな声で呟いた。

忍者が異世界入り 8話

「「討伐任務を受けましょう!」」

 それは、俺があの赤字クエストをこなしてから数日後の事。
 案内所に行くと、待ち構えていたノアとライムが開口一番に言ってきた。
「……別に構わんが。一体、どうしたんだ急に」
 討伐任務というのは、その名の通りモンスター討伐を目的に上げられた任務の事。
 以前三人で討伐任務を一度受けた事があるが、それ以降、なぜか二人から、討伐任務は受けないという事になったのだが。
 俺が先日、通称赤字クエストと呼ばれている難易度の高い任務をこなしてから、どうも二人の様子が何かおかしかった。
 というのも、俺を誘う事なく二人のみで任務に行ってしまうので、俺も一人でできる任務ばかりやっていた。
「修行していたのです!」
 ライムが突然そんな事を言い出した。
「……修行?」
 オウム返しに尋ねる俺に、ノアが応えた。
「はい、修行です。ゲンゾウさんはもう、赤字クエストですら一人でこなしてしまうでしょう? その……最近、当たり前の様に私も任務にご一緒させてもらっていますが、私とライムさん、どうも、ゲンゾウさんの足手まといにしかなっていない気がしてまして」
 別に足手まといに思った事などないのだが。
「二人には助けられているが。ノアは森の中での目的地までの道に詳しいし、ライムは採取任務の際、いつも大量に籠だの鞄だのを持っていくから、持ち帰れる採取量が多くてとても助かっている」
「ゲンゾウさん、それは道案内と荷物持ちって言うんです」
 ノアの言葉にライムがうんうんと頷いている。
「今回は、ゲンゾウさん……、ゲンゾウの半分くらいは活躍してみせるよ!」
 俺の名前を言い直したライムが、むんと薄い胸を張る。
 ライムがずっと俺の事をさん付けで呼ぶので、居候の身としてはむしろ俺がライムさんと呼ぶべきではと言った所、折衷案としてこの呼び名に。
 ノアは呼び捨てでいいと言っても、頑としてゲンゾウさん呼ばわりなのだが。
 
 しかし、俺もこつこつと任務を重ね、貯めた報酬で様々な武器を発注し、それらが出来上がってきた所だ。
 西洋刀は使い難いので今までは素手が主流だったが、鍛冶師のもとへ通い続けて製法を説明し、試作に試作を重ねた結果、先日忍者刀が完成した。
 日の本で作られた本物の刀には、切れ味や性能は遠く及ばないが、それでもやはり、形状だけでも使い慣れた物と同じというのは、やはり使い勝手が違う。
 他にも、先に重りを付けた鋼線、クナイと棒手裏剣一式、鉄爪が飛び出すカラクリを仕込んだ手甲や、かかとに硬い金属を仕込んだ、ブーツと一体になったすねあてなどを受け取っている。
 俺としても、これらの使い勝手を試してみたい。

「それじゃ今日は、ちょっと強気に! 討伐場所は狩場での、基本中の基本モンスター、ゴブリン、オーク、コボルトの無制限討伐を受けときますか! 討伐場所的にちょっと危険ですが、もう以前の私達ではありませんし、ゲンゾウさんがいれば何とかなるでしょう!」
「まかせれ! あたしの氷結のダガーが火を噴くぜ! いや、火は噴かないけども! でも、今日は活躍するよ!」




 そこは森の中でも、冒険者達に通称、狩場と呼ばれる危険地帯。
 一体何が危険なのかと言うと……。

「そっちに三匹行ったぞ! 手の空いてるパーティは頼む!」
「バカ言ってんじゃねえ、どこも手一杯だ……おわ、ちょっ! 誰かこっち手伝ってくれ! ゴブリンが集団で……っ! ぎゃあああああああっ!」
「殺られた! また一人殺られたよ! 帰ろう、ここはもう無理だよ、後は騎士団に任せようよ!」
「ジェスターが! ねえ、怪我したジェスターがオークに連れてかれてるよ! あいつ、顔が可愛いからオークに女だと思われてるんじゃないの!? 誰か助けてあげてよ! ってゆーか、ねえオーク、こっち見て! ここにいい女がいるでしょ!? 私も怪我して動けないのに何でそっち連れて行くの? おいこら豚、こっち見ろってんだよ!」

 そこには数多くの冒険者が入り混じり、オーク、コボルト、ゴブリンの大群と激戦を繰り広げていた。
 俺が今住んでいるこの街、バイアスの中心部にはこの街の経済の要ともなっている物がある。
 それは、巨大な地下迷宮。
 この街はそのダンジョンを囲むように作られており、冒険者達がダンジョンから持ち帰る、モンスターの肉や素材、ダンジョンにしか生息しない薬草、その他、光り物が好きなモンスターが貯め込んでいる宝物の数々など。
 そういった物の流通によって、この街の経済は成り立っていた。
 ダンジョンの入り口には常時屈強な騎士団による警備がなされ、街中にモンスターが現れる事はない。
 だが、地下に広がるダンジョンから、なんとか地上に出ようとする下級のモンスターがいる。
 それらはダンジョンの壁を掘り、ある日突然群れをなし、大挙して地上に湧き出してくる。
 そうして、突然地上に開いた穴から下級モンスターが湧き出してくる場所を、冒険者達は通称、狩場と呼んでいた。
 いずれは騎士団が制圧しに来るのだが、それでも、それまで放っておいていいものでもない。
 一定数の冒険者パーティが集まると、クエスト案内所からこの様に、報酬は出来高制の、危険な赤字クエストとして発注される。

「ひゃー、狩場って始めて来たけど、すんごいね!」

 ライムがそう言うのも無理はない。
 下級とはいえ、モンスターの数は溢れんばかりであり、その数は百や二百はくだらないだろう。

「ああ……、ぶっ放したい……! あの大挙しているモンスターの群れのど真ん中に、私の能力、範囲拡大を使って、ありったけの魔力と共に広範囲魔法をぶっ放したい……!」
 ノアが物騒な事を言っている。

 群れの中にはちらほらと奮闘している冒険者の姿が見える。
 そんな中に魔法を放てば、もちろん彼らも一網打尽だ。
「……さて、ではどうするか。俺が前に出るから、二人は俺の後ろに……」
「「もちろん各員別行動で!」」
 俺が最後まで言う前に、ノアとライムが同時に言った。

「……それは構わんが、二人とも大丈夫か?」
 二人がどれ程の実力を持っているのかは知らないが、他の冒険者達の中にはちらほらと負傷者や死者も出ている様だ。
 だが……

「大丈夫です! 魔法使いの強大な火力で、ゲンゾウさんよりも多くのモンスターを狩って見せます! もう、以前みたいにモンスターと出会い頭に、全てゲンゾウさんが狩っていくなんて状況にはさせませんとも!」
「あたしも負けないよ! このダガーで、そこいら中に氷の彫刻を作りまくってきますとも! こないだゲンゾウと一緒に行った任務の時みたいに、ダガー抜いたら終わってたなんて事にはならないからね!?」

 ……ふむ。
 二人とも、俺よりも経験の長い冒険者なのだ。
 余計な心配だった様だ。
「よし。では、三十分後に再びここで落ち会おう。正直、俺もこれ程の大量の敵を相手にするのは初めてだ。……では。…………参る!!」

忍者が異世界入り 7話

「じゃあゲンゾウさん、あたしは先に仕事してきます。また後で!」
 昼飯を食べ終わったライムが、そう言って家を出て行った。
 俺が米国に来て二週間が経つ。

 俺は深夜頃から朝にかけ、誰にも見られない様に街の外壁を越え、森で忍としての修練を積む。
 忍ではなくなった今でも、毎日の日課だった修練を欠かすと、気持ちが悪いのだ。
 そして、昼までテレビを見て米国の常識を身につける毎日だ。
 昼前になると起き出してくるライムと共に飯を食べ、そしてライムはそのまま仕事に行く。
 俺は、暴れん坊ロードを見なければいけないので一時間後に仕事に出ることにしている。
 今日の暴れん坊ロードは、元領主の主人公、老人一行が立ち寄った村に、すでにご老公を名乗る偽者の一行が滞在していた所から話は始まる。
 その一行は偽者であると、村人に宣言する主人公の老人のお供二人。
 だが偽者の一行を見た老人は、自分は本当に元領主であったのか? と、疑心暗鬼に陥ってしまう。
 やがて老人は、自分のお供も本物なのかと疑い出す。
 そして、老人はある策を弄した。
 本物のお供ならば、偽者の老人と自分との見分けが簡単につくはずだと。
 老人は、偽者の老人に成りすまし、お供の様子をうかがった。

 …………そして、主人公の老人は偽者一行の二人を引き連れ、次の村に旅立っていった。

 …………明日から出演者が代わる事になるとは、今回も展開が読めなかった。
 明日のこの時間も楽しみにしていよう。




 あれから盗賊ギルドは何も仕掛けてくる事はなかった。
 報復に来る事は予想できていたので、あの夜、先手を打ったのだが……。

ライムの話では、冒険者はその職業ごとにギルドに所属するのが当然なのだそうだ。
盗賊ギルド、戦士ギルド。
魔術士ギルドに僧侶ギルド。
それらを統括して冒険者全般を支援しているのが、冒険者ギルドという国営の組織らしい。
名目は、危険なモンスターと戦う冒険者達を支援する為。
本来の目的は、力ある冒険者達を管理下に置いておきたいのだろうとは、ライムやノアの言葉だ。
 ノアの話だと、この職業ごとのギルドとやらに所属していないと、その職業特有のスキルとやらが開発されても教えてもらえ無かったりと、色々と不都合があるそうな。
 あんな組織だとはいえ、除名となるとライムが困るらしいので、ライムを除名しないでやってくれと後日交渉に向かうと、四代目の頭は快く了承してくれた。
 上納金とやらが必要だとの事だったので、俺はライムから預かった上納金を、毎晩、わざわざ起こしては申し訳ないので、寝ている四代目の枕元へそっと届け続けていたら、ありがたい事に上納金も支払わなくてよくなったらしい。

 四代目の頭は随分良心的な男な様でなによりだ。

 では……。俺も、仕事をするとしようか。




「げ、ゲンゾウさん本気ですか? この任務って、ずっと赤字で残ってる任務です。つまり、誰も達成できずに放置されてる難易度の凄く高い任務ですよ? 以前のスネア草採取はオークの目撃例があるから一時的に赤字任務になっていたってだけですが、これはずっと赤字なんですよ?」
 案内所で機械を操作していた俺に、ノアが心配そうに警告してくる。
 だが、このような任務、造作もない。
 むしろ今回の任務は、忍としてうってつけだ。
「問題ない。任務の性質上、決行は夜になる。……準備があるから、今日は二人には付き合えない。すまんな」
 俺は隣で俺を見ている心配顔のライムとノアに言葉を返した。
 ここ最近、この二人と共に任務を受ける事が多いのだが、今日の仕事は一人の方が向いている。
「それはいいけど、大丈夫? ゲンゾウさん、相手は貴族だよ? 警備も厳重なお屋敷だよ? どうするつもりなの?」
 不安げな表情のライムに、俺はもう一度問題ないと返事を返した。
 難易度が高い任務など、むしろ望む所だ。
 二人に合わせて、このところ危険の少ない採取任務ばかりこなしていたが、やはりたまには高難易度の任務をこなし、忍としての欲求も満たしたい。

「ああ、ライム。今日は遅くなるから晩飯は必要ない。……なに、明日の朝には、受付から任務完了確認の報告を受けれるだろう」




今の時刻は、深夜とはいかないが、すでに人通りもまばらな時間帯だ。
集めた情報によれば、この時間には貴族の当主は眠りに就いているらしい。
クエスト案内所には、実に様々な任務が寄せられる。
それこそ、簡単なお使いから、お尋ね者の暗殺なんて物騒なものまで。
 そして、今回の任務の標的は目の前の屋敷の中にいた。

 屋敷の主はこの街の有力者という事らしいが、さすがに厳重な警備が敷かれている。
 門は硬く閉ざされ、侵入者対策なのだろうか、一階には窓が無い。
 屋敷を囲むように高い鉄柵が設けられ、唯一の入り口である玄関には二人の門番が立っていた。
 俺は思わず身震いする。
 これだ。
 これこそが、忍者の仕事だ。
 万が一を考え、用意しておいた黒い手ぬぐいで口と鼻を覆っておく。
 屋敷に侵入した所を見つかれば、相手が相手だ。
 処刑されてもおかしくはないだろう。
 俺は門番の様子をうかがいながら、玄関のある正面とは逆に向かった。
 屋敷の裏にはドアは無く、一階部分には窓も無い。
 その為か、人を配置しての警戒はしてはいなかった。
 屋敷自体が大きいせいか、二階の窓の高さは俺の跳躍で届く範囲を超えている。
 ……造作も無い。
 懐から、この二週間の間に自作しておいた忍道具、クナイを取り出すと、暗闇の中目を凝らす。
 わずかな星の明かりを頼りに、レンガ造りの壁の隙間を見極めた。
 周囲に誰もいない事を確認し、素早く鉄柵に跳び、乗り越えると、クナイを壁の隙間に向かって投げ放つ。
 小さな音と共に、狙い通りに壁の隙間にクナイが打ち込まれた。
 柵を越え、屋敷の敷地内に降り立った俺は、壁に打ち込まれたクナイを目がけ、助走をつけた。
 打ち込まれたクナイを足場にして、二段跳びの要領で軽々と二階部分の窓枠に手を掛ける。
 そのまま窓枠にぶらさがり、そっと中の様子をうかがった。
 そこには、魔道テレビを見ながら笑いを上げている若い男。
 間違いない。今夜の任務の標的の一人だ。
 窓の鍵の部分を見ると、ここが二階だからか鍵はかけられていなかった。
 標的は、窓に背を向けた態勢でテレビに夢中になっている。
 好機!
 俺は片手で窓枠にぶら下がると、窓を少しだけ開けて隙間を作り、懐から吹き矢を取り出す。
 吹き矢の先を標的の首後ろに狙いを定め……!
「フッ!」
 放たれた吹き矢の針は見事に首筋に刺さり、標的はそのままぐったりと横になった。
 すかさず窓から侵入し、標的から針を抜き取り、ベッドに運ぶ。
 胸元までシーツをかけ、テレビと部屋の灯かりを消した。
 これで、誰かが見回りに来ても寝ている様にしか見えないだろう。

 部屋の隅にあるタンスに上り、部屋の隅の天井部分をそっと押す。
 米国の家々の造りは共通で、大概の家の天井は、ネズミ駆除の為なのか、一部が持ち上がり、屋根裏に上れる様になっている。
 ここの部屋も例外ではなく、天井板の一部が持ち上がった。
 俺は天井裏に侵入すると、屋敷の当主の部屋を目指す。
 屋根裏をしばらく移動していると、下から大きなイビキの音が聞こえてきた。
 針で小さな穴を開け、屋根裏からそっと下の様子をうかがうと……。

 見つけた。
 任務の紙に載っていた、この屋敷の主で間違いない。
 俺は天井裏の床、標的の顔の部分の、真上に位置する場所に小さな穴を開け、そこから細い糸を垂らした。
 するすると降りる糸の先は、標的の口の真上に位置する。
俺は懐から小瓶を取り出し、中の液体を糸に垂らして伝わらせた。
大口を開けてイビキをかいている標的の口に、垂らした液体が落ちていく。
小瓶の中が空になる頃、口の中に液体が溜まった事で寝苦しくなったのか、標的は口を閉じ、ごくりとそれを飲み込んだ。
寝返りを打った後、再び大きなイビキを上げる。

…………造作も無い。

俺は侵入した痕跡を全て消し、そのまま屋敷を後にした。
忍らしい任務を達成できた、胸に湧き上がる深い喜びと共に。




「はい、確かに任務完了を確認しました。凄いですね、依頼主の、屋敷の奥様が感心してましたよ。どうやったんだろうって。では、任務『薬嫌いの主人に何とか薬を飲ませて欲しい』『夜更かしばかりする息子をたまには早く寝かせて欲しい』達成です。ご苦労様でした!」

 造作も無い!

忍者が異世界入り 6話

「ただいまっ! ゲンゾウさん、遅くなりましたー! いやあ、なんかオークロードが出たとかで、街中でのあんまり稼げない仕事しかできませんでした……。ご馳走を振舞う予定だったんですが、普通のご飯になりそうです……。ごめんなさい……」
 帰宅したライムが、開口一番申し訳無さそうに謝ってきた。
「いや、気にしなくていい。こうして一夜の宿を貸してもらえるだけで、雨風を防げる分充分ありがたい。それに、俺も僅かばかりだが早速仕事をしてきた。家賃代わりだ、取っといてくれ」

 だがライムは、俺が差し出した報酬を、慌てたように手を振り受け取らない。
「とんでもないですよ! ここに泊めるのは助けてもらったお礼ですし、一晩泊めてご飯奢ったぐらいじゃ、とても恩返しには足りないですよ! 一夜の宿と言わず、ずっと泊まってもらっていいですし。家賃なんていりませんから、そのお金は大事に取っといてください!」
 ……ふむ。
 これは言っても聞いてもらえなさそうだ。
「……なら、こうしよう。今日、俺とライムが稼いだ金を合わせて、今日の晩飯はそのご馳走とやらにすると言うのはどうか?」

 ライムは、そのあどけない顔にとびきりの笑顔を浮かべ、これ以上ないぐらいにぱあっと輝かせた。




 この国の飯は美味い。
 実に美味い。
 里でのご馳走だったぼたん鍋や、鴨肉の味噌焼きなどとは比べ物にならない美味さだ。
 というか、俺が今までに食べた事も聞いた事もない食材だった。
 ガルガンティアのぽにょぽにょ焼きと、ホワイトクラブの鍋はたまらなく美味かった。
 ……いかん、思い出したらまた食いたくなってきた。

「ふあー、おいしかったですねえ! ゲンゾウさん、稼ぎが良かった日はまた行きましょうっ! 他にも、たくさんいい店知ってるんですよ!」
 その意見にはぜひ賛同したい。

 暗くなった夜の街をライムと共に帰る中、ふと空を見上げる。
 米国の夜空は、日本の富士の樹海の曇り空とは違い、どこまでも澄んだ、満点の星空だった。
 こう星が明るくては隠密仕事に支障をきたしそうな程だ。
 酒で火照った体に、米国の夜風は、心地よかった。



「……さて。ゲンゾウさん、寝る所についてなんですが。まあ、見ての通りベッドは一つ。そして、あんな場面で助けてくれたゲンゾウさんが、あたしにイタズラするとは思えませんし。それに、どちらかが床で寝るってのも、冒険者稼業を生業にしていくなら、ベッドでしっかりした休息は大事だと思うんですよね。まあ、あたしの魅惑のボディーにクラッときちゃって我慢できなくなったら困るってのなら別々に寝るのも仕方ないですが、まあでもしかし……」
 ライムがベッドに潜り込み、壁側を向きながら何かをぼそぼそ言っている。
 俺はそれを子守唄代わりに聞きながら、今日一日の出来事を思い出し、ゆっくりと目を閉じる。
 酒も入っているせいか、よく眠れそうだ。
「んもう、黙っちゃって。ゲンゾウさん照れてるんですか? あ、でも誤解しないでくださいよ、別にお軽い女って思われたら心外です。あれですよ、別にそういうのに興味がある年頃だからって訳でも、同じ年の子達が次々経験してるから焦ってるって訳でも……」

 俺は下から聞こえてくるライムの声を聞きながら。

「……もう、寝ちゃったんですかゲンゾウさ……? あれっ? げ、ゲンゾウさんちょっ! ど、どこ!? どこで寝てるんですか、ゲンゾウさん!?」

 ライムの家の、天井にある梁の上で腕を枕に横たわり、ゆっくりと眠りについた。





草木も眠るとはよく言った、丑三つ時。
 深い深い闇の中、微かに聞こえるのはライムの寝息と虫の音。
 俺はゆっくりと身を起こすと、そっと梁の上から床に降りた。
 そのまま音を立てない様に気をつけて、静かに小屋の外に出る。
 そのまま、そっとドアを閉め、夜の街を、昼間ライムから聞いていた、ある場所に向かって疾走した。




 汚いが、意外にしっかりした造りの古い建物。
 その建物の中で、大男が、強面の男達を前に話をしていた。
「……よし。守衛の巡回はもう済んだな? いいか、相手は一人だが腕が立つ。油断したとはいえ、この俺が一発でぶっ倒されたんだからな。だがどんなに強かろうが、寝てる所を不意打ちされりゃあ大人も子供も変わらねえ。いいか? 男をぶっ殺したヤツに、ライムの奴をくれてやる。売るなりオモチャにするなり好きにしろ」
 その言葉を聞き、狭い建物の中に歓声が広がった。
「頭ァ! 冒険者組合の方はどうします? ライムの奴は盗賊ギルドの仕事やらねえで、クエスト案内所に入り浸って、ほとんど冒険者ギルドの仕事だけで稼いでます。冒険者ギルドに協力的なあいつが行方不明になれば、冒険者ギルドから査察に来ませんかねェ?」
 一人の男のその言葉に、大男が舌打ちする。
「チッ! あのガキ、ウチのギルドのノルマもロクにこなさねえで、そんな事してやがったのか。だから何時まで経っても貧乏なんだよ、バカが! 構わねえ、あいつのレベルは低いはずだ。低レベルの冒険者が、挫折して街から居なくなるなんてよくある話だ」
 それを聞き、集まった男達はそれぞれ無言で頷き合う。
「いいかお前ら! ライムの奴は見せしめだ! 今後、ウチのギルドの仕事を疎かにして、冒険がしてえなんてガキみたいな事言ってるヤツがいたら、即座に俺んとこに報告に来い!」

「……しかし元々は仲間なのに、それは幾らなんでもやり過ぎじゃないのか?」
 その言葉を聞いた大男は不機嫌そうに顔をしかめ、床にツバをはき捨てた。
「バカ抜かせ! あのガキ、使ってないなら貸してくださいってメモだけ残して、俺の虎の子の氷結のダガー持って行きやがったんだぞ! ガキは黙って大人の言う事だけ聞いてりゃいいんだ。てめえも俺の言う事聞けないなら、どうなるか覚悟しとけよ!?」
 なるほど。
「つまり、ライムが今更ダガーを返して侘びを入れても、交渉の余地は無いと?」
「当たり前だ! あのガキは一生身売りか性奴隷だ! てめえはさっきから何を言ってやがるこのマヌケ!」
 大男は、怒鳴りながらこちらを向いた。
 大男の背後に、先程からそっとたたずんでいた俺の方を。

「そうか。分かった」

 こちらを振り向き、俺と目が合い驚きの表情を浮かべている盗賊ギルドの頭の首を、俺は手刀で叩き折った。

「へっ!? か、頭? 頭!?」
 盗賊の一人が、床にぐにゃりと崩れた絶命した大男を見て、恐怖の混じった声を上げる。
「お、お前、どど、どこから入ってきやがった!? なんだよ、なんなんだよお前は!」
 別の盗賊が叫ぶ中、その場にくつろいでいた多くの者が立ち上がり、腰からダガーを抜き放つ。
 中でも、口元の片方が耳近くまで裂け、歯茎の一部がむき出しになっている男が、ぎらついた目でこちらを見てきた。

「お前が昼間、頭……、いや、元頭を気絶させたって奴か。俺はたった今お前のおかげで新しい頭になった、今まで頭代理をやってたゼスってもんだ。本来なら生かして返さねえ所だが、お前は強え。ライムと氷結のダガーを引き渡せ。そうしたら……」
 俺は喋っている口の裂けた男へ距離を詰めると、
「そうしたらお前だけは見逃し……、おいちょっ、待……!」
 男に最後まで言わせずに、その喉へと人指し指を突き入れた。
 喉の急所に指を根元まで入れられ、口をぱくぱくさせて倒れ、そのまま動かなくなる二番目の頭。

「…………次に、ここの頭になる奴は誰なんだ?」
 俺の言葉に、その場に居た男達が青い顔をして見合わせた。
 そして、やがてある男の方に視線が集まる。
「ままま、待ってくれ! 待て、話をしよう! 分かった、あんたが強いのはよく分かった!」
 そう言って、皆の視線を浴びながら前に出てきたのは、脂汗を浮かべた小太りの男。
 その男が前に出ると、他の男達も道を譲る。
「……なるほど、お前が三番目のここの頭か。話し合う事は大切だ。俺が四番目の頭と話し合う必要が無い事を望みたい」

「ひっ! ちょ、ちょっと待ってくれ! あれだろ? あんた、ライムとダガーを見逃せってんだろ? この場の連中がいいって言うなら、俺は見逃しても構わないと思ってる。おい、文句ある奴はいるか!?」
 男の言葉に、俺が回りの男達一人一人の顔を見て行くと、皆次々と視線を逸らし、顔を伏せていく。
「……誰も文句は無いらしい。……そ、その、何だ。ダガーとライムだけじゃ手打ちには足りないってなら、そこのドアの奥は元頭の部屋だ。そこから好きな物持って行ってもらっても……」
 小太りの男、三代目の頭は、おどおどしながら上目使いでこちらを覗う。

「報復に出るだろうという事は分かっていた。今後俺とライムに関わりさえしなければ、それでいい。……では、失礼する」

 俺はそれだけ言うと、建物の入り口から堂々と出て行った。

 そのまましばらく夜の街を歩き続ける。
 そして、誰も後を着けていない事を確認すると、俺は再び盗賊ギルドの建物に向かう。
 そのまま建物の屋根に上り、屋根の一部を音を立てない様に剥がし、屋根裏へと侵入した。

「頭! このまま舐められたままでいいんですか? 街に噂が流れたら、仕事できなくなりますぜ?」
「バカ、俺達は盗賊だぜ? あんな男と真正面から戦ってどうすんだ。しばらく経ってほとぼりが冷めた所を襲撃するんですよね、頭?」
 男達が口々に言う中、先程新しい頭になった小太りの男が片手を上げ、男達を黙らせる。

「お前ら、俺がこのままで済ます訳がないだろうが。幸い、邪魔な二人はあの男が始末してくれた。本当なら、俺が頭になるのはずっと先のはずだったのに、随分と幸運なこった! そうだろう、お前ら?」
 小太りの男の言葉に、その場の男達がにやにやと笑みを浮かべた。
 尚も男は続ける。
「ガイザックの奴は、力だけのバカだった。ゼスの奴は、その凶悪さで周りを脅し、ただ暴れたいだけのバカだった。だが、俺は違う。金勘定のできないあいつらと違って、これからはお前らをたっぷり儲けさせてやる! ライムの所のあの男は、盗賊らしく暗殺だ! 盗賊を敵に回せばどうなるか、暗殺者の恐ろしさってやつを……」
 俺は屋根裏の床を蹴破ると、小太りの男の上に飛び降りた。
 空中で、男の頭を両手で掴み、地に下りると同時に首を捻る。
 突然降ってきた俺の姿に、男達が恐怖に目を見開き、シンと静まり返る中。
 俺は誰にともなく呟いた。



「……四番目の頭は誰だ?」
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自宅警備兵

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